嘘みたいな夢

もう時効なので。昨年の11月に見た夢の話を聞いてほしい。
嘘みたいな夢を見て、起きた時「ははっ、」と乾いた笑いがでた。
そのあとぼたぼたと泣いてしまった夢の話。

ーーーーーーー

深夜。
自室には大きな窓がついていた。開いた窓から吹き抜ける風によって薄いレースのカーテンが揺れている。夜風が気持ち良くて、月明かりが眩しくて、この世に音なんてないんじゃないかってくらい静かで、終わりのない夜が始まるようだった。

私は全く眠れなかった。眠れない時はラジオを聴くことにしていた。
いつもはradikoで聴いているが、この時スマホの充電は切れていた。
仕方ないと思い、中学生の頃に作ったラジオをベッドに運びダイヤルを回す。
寝っ転がりながらガサガサした音から音楽を探す。
ジジジ、ザザザザ、ザーザー。
雨の音みたいなノイズが部屋に鳴り響いている。
外は月が綺麗に見えているのに、私の部屋の中は大雨が降っているみたいだった。

時間は23:26くらいだったと思う。
ラジオのノイズがようやく消えて、『ノスタルジスター』が流れてきた。
「二丁魁の曲ってラジオで流れるんだ」とベッドにうつ伏せになりながら聴く。
もうこの番組も終わる時間だろうなと思いつつ、そのまま流しっぱなしにしておこうと思った。寝落ちするまで聴こうと思って。

初めてyoutubeで『ノスタルジスター』を聴いた時、星が降るような音楽だと思ったことをよく覚えている。綺麗でキラキラで、暖かくて、きまるくんの語りかけるような歌い出しが大好きだった。
2回目くらいに見に行った新宿のライブ。初めて見た『ノスタルジスター』に泣いちゃって、特典会で「どの曲で泣いちゃったの?」って聞かれた時、曲名がわからなくて「歌った曲全部」って答えちゃったことを今でも覚えているし、白ちゃんがニコニコ笑って「泣いちゃったんだね」って優しく話してくれたことが嬉しかった。
枕に顔を埋め目を閉じると、瞼の裏にはその時の思い出が流れていた。

半分、寝落ちていた瞬間だった。

「さよなら」まで歌い終わると男の子の跳ねるような、でも穏やかな声が聴こえていた。
「リクエストありがとうございました。二丁目の魁カミングアウトで『ノスタルジスター』でした!」
きまるくんの声だった。
私はベッドから飛び起きた。聞き間違いかと思ってラジオの音量をあげる。
すると白ちゃんの声まで聴こえてきた。
「他にも二丁魁には良い曲があるので“これからも”たくさん聴いてくださいね!」
せーの、と二人の小さい声が重なって
「「バイバイ、おやすみなさい!」」

待って待って、まだ「バイバイ」なんて言わないで。
「これからも」なんて言わないで。
終わらないで。

必死に音量をあげているのにどんどん小さくなっていく。私が慌ててラジオを抱えると、少しがさついた音になる。
そっと元の位置に戻して、それでももう一回声を聴かせてほしくて、耳をラジオに押し当てる。

「ふと立ち寄ったあの場所は 今ではなくて僕は気付いた 誰かを愛しその心に 居場所を作りたい」

そしてこの番組は終わった。

私の気持ちなんて知るよしもなく、ラジオからノイズが流れた。

何も聴きたくなくてラジオの電源を切った。部屋の中で降っていたラジオの雨音は止んで、また静かな夜に包まれた。でも窓から見えた空はさっきよりも少し明るく見えた。
星がたくさん降るような。
わからないけど明るく見えた。

「きまるくんも白ちゃんも、ラジオパーソナリティーやってるなら教えてよ!!」

ーーーーーーーーー
と、思ったところで目が覚めた。

朝起きて、「こんな日に見るのは、馬鹿みたいだし、出来すぎた夢だ」と思った。
窓の外はちゃんと朝で、スマホの充電も100%、ラジオは私の枕元ではなく本棚に置いてある。
実際に今見た夢なんだと思った。

あまりにも綺麗な夢だったことと、きまるくんと白ちゃんの声が聴こえたことと、なんで今日なんだろうと思ったらボタボタと涙がこぼれ落ちた。
これを誰かに話したら嘘のように思われちゃうのかなと思うとそれも寂しくて、ツイッターの下書きに残した。夢がほんとだったら良いのにと思って、radikoのタイムフリーを確認した。どこにも私が聴いた番組はなかった。

私が見たのは紛れもなく夢だった。
2021年、11月11日の朝のことだった。